半可通素人の漂流

哲学から魚のお話まで。半可通素人が書き散らかすネットの海を漂流するブログ。

快適な雑音、という矛盾

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photo by peddhapati

 

 前回の記事(羅王様から脳髄に北斗剛掌波をくらった体験記 - 半可通素人)で「コンフォートゾーン」について書きましたが、コンフォートつながりでもう1つ書きます。

 
 皆さんは「コンフォートノイズ」という言葉を聞いたことがありますか?
 少し専門的な話になりますが、これは電話で通話を行う際に用いられる言葉です。誰もが普段携帯電話などで何気無く通話をしていますが、例えば回線の品質が悪ければ雑音がのって相手の声が聞こえづらかったり、自分の声が相手側の受話器スピーカ→相手側のマイクを通じて自分に返ってきたり(これをエコーと言います)して話しづらい状況が生じます。
 そのような不具合を避けるために、通常は電話器や回線で音声処理を加え、ノイズの低減やエコーのキャンセルなどを行っています。特に音声のデジタル処理技術が発展している近年は、こうした処理によって通話品質の向上が図られています。

(ご参照:エコー除去 - Wikipedia

 

 音声処理によってノイズやエコーを消すというのは一見メリットばかりのように思えますが、実際に完璧にノイズやエコーを消すと、相手が何も話していない無音の時に何も音がしないため、「これ電話繋がってないんじゃないの?」という感覚に陥ります。

 従って通話の邪魔になるノイズやエコーを消した後に、実は「サー」という背景雑音をあえて加えて違和感を生じないようにしています。この背景雑音のことをコンフォートノイズと言います。和訳すると快適雑音。
 何だか矛盾しているような感じですが、音楽を再生した時に始めスピーカから小さくサーと音が鳴って「音が出ているな、ちゃんと再生されているぞ」、というあの感じと同じ感覚を人工的に作り出しているのです。
 
 
 何気ない日常の中にも、こうした技術が使われて日々進歩しています。
 ちなみに通話でのエコーがどういうものか体験してみたければ、LINEの通話で自分側をスピーカーホンにして話してみると、自分の声が少し遅れてまるまる返ってくることがあります(機種によって異なる可能性があるので一概には言えませんが)。エコーがあると非常に話しづらいです。無料で電話できるので文句は言えませんが、LINEのエコーキャンセラーは性能がイマイチ良くありません。ただVoIPなどデジタル通話の技術もどんどん進歩しているので、こうしたものは順次改善されていくとは思います。
 
 コンフォートノイズに話を戻すと、快適な通話のために意図的に雑音を加えている、ということですが、考えてみると変な話です。こうした例に見られるように、科学技術による生活の利便性向上が全盛の近現代ですが、人間とて生き物なのでアナログな部分が残っていないと違和感なり逆に不便に感じたりすることがあります。「0か1か」のデジタルの世界ではなく、「0と1の間」がモノをいう世界です。ここの丁度良い塩梅というのがアナログの味わい深さであったり、科学の限界を示していると思うのです。
 
 今回取り上げた音というのは直接感覚で受け止めるため、このアナログな部分というのがとりわけ重要になります。音声処理からは話が外れますが、車のドアを閉める時の「バタン」という音は人間が心地良く感じるように設計されています。またこれは有名な話ですが、電気自動車はエンジン音が静か過ぎて歩行者が気が付かないため、人工的にエンジン音を出すことが求められています。ちなみに私はハイブリットカーのあの独特の走行音(車種によっては宇宙船みたいな音がしますね)があまり好きではありません。
 
 
 昔の人が「過ぎたるは及ばざるが如し」と言いましたが、まるで現代の行き過ぎた科学技術の有り様を予言しているようで皮肉でもあります。人はつい科学が万能で至上のものであるように錯覚しますが、科学は幸せで快適な生活を送るための手段に過ぎず、科学を進歩させること自体が目的ではありません。ここを履き違えると間違いを犯すので、やはり「手段が目的化していないか」を日頃から省みる必要があります。