半可通素人の漂流

哲学から魚のお話まで。半可通素人が書き散らかすネットの海を漂流するブログ。

言いたいことも言えないこんな世の中でポイズンの話

   今日は魚のお話です。

 

 (※魚を食べる楽しみについて書いていますが、原発事故以来、放射性物質による環境汚染は収束の目途も立たず、水への汚染も止まらない状態にあり、淡水海水問わず国内産の魚介類に対しては産地や放射能検査の有無に関して非常に気を使わなければならない状況です。そしてそれは、水産業を生業にしている方々にとって死活問題であるばかりでなく、消費者である私たちにとっても深刻な問題です。大事な食のことなのに、世間では何事もなかったかのように扱われ、人々の関心も薄れているように感じます。辛く悲しい限りですが、無闇に恐れ避けるのではなく、こうした状況を踏まえたうえで自分にもできることをと考えています。その観点からも、まずは魚って面白いんだよということを伝え、興味を持っていただけるよう、このブログで触れていこうと思っています。)
 

   冬の時期は、外は寒いし魚の活動が渋いしで釣りには厳しい季節ですが、冬に旬を迎える魚の美味しい季節です。冬が旬の魚は例えばブリ、タラ、アンコウ、マグロ、ワカサギ、フグ、カワハギ、フナなどが挙げられます。ブリは氷見の寒ブリが有名ですね。フナは食の対象としては少しマイナーですが、地方では小ブナが甘露煮や昆布巻き、大きい活魚は洗い(刺身を冷水にくぐらせて身を引き締めたもの)などで食されており、寒ブナが美味とされています。

 
   さらにマイナーな魚ですが、北海道の道南地方では冬になるとゴッコ(ホテイウオ)を使ったゴッコ汁という郷土料理が楽しめます。ゴッコは検索すると分かりますが、不細工で強烈な見た目です。しかし身はゼラチン質で小粒な卵がプチプチした食感をしており、汁にすると不思議と美味しく化けます。
   道南の恵山(えさん)ではこのゴッコがよく水揚げされるため、町おこしとして毎年冬に恵山ごっこまつりが開催され、ゴッコ汁がふるまわれます。(恵山ごっこまつり | 函館市)このごっこまつり、かつてはゴッコを洗面器に入れて凍らせ、氷の上を滑らせる「ゴッコカーリング」というシュールな競技が開催されていましたが、動物愛護の観点から現在は廃止されてしまいました。
 
 
   マイナーどころを紹介しましたが、フグも冬が旬の魚として有名です。そしてフグは毒を持つ魚としても知られています。フグの毒といえばテトロドトキシンですが、毒性は青酸カリの850倍程度とか。フグ自体が高級魚のためなかなか食する機会はありませんが、改めて強力な毒であることが分かります。ご存知の通り、フグの調理には免許が必要です。素人が自己判断で捌いて食べるのは、中毒の可能性があるため行ってはいけません。
 
   このフグ毒、フグ自身が中毒死することはもちろんありませんが、それは自然に蓄積する濃度の毒に耐えられるという意味で、人為的に高濃度のテトロドトキシンを与えると中毒になります。そして毒は自分で作り出すのではなく、もともと細菌が生産したものが餌を通して生物濃縮され、体内に蓄積されるという説が有力です。そうすると餌を大量に摂れば毒の濃度が高くなって中毒にならないかと思いますが、自然は巧妙にできているようです。
 
 
   ちなみにフグの毒が怖い方は、似たような魚としてカワハギを食べるのも良いでしょう。味と食感がフグによく似ており、フグでは有毒で食べられない肝などの部位も無毒です。人によってはカワハギの方が美味しいという人もいるくらいです。(※注意:カワハギの中にも、猛毒を持つソウシハギという種類がおり、個体によってはフグの70倍の毒性を有すると言われているため絶対に食べないように注意が必要です。ソウシハギは主に沖縄や高知などに生息しますが、近年温暖化により徐々に北上し、兵庫県などで漁獲されているのが報告されています。)
 
 
   このように注意すべきフグ毒ですが、世の中には毒の無いフグも存在します。養殖フグがそれにあたり、天然の場合は季節により毒の量が変わり、種によって毒化する部位が異なりますが、餌の種類を変えて養殖すると、同じ種であってもフグ毒が少なかったり、全く無い場合があるそうです。栃木県などでは温泉で無毒のフグを養殖し、「温泉フグ」として出しています。なお全ての養殖フグが無毒な訳ではなく、海を網で囲って養殖されていたり、天然に近づけるために湾内を仕切って養殖されていたりする場合は、網の間を通ってきた毒化した餌を食べてフグが毒化する可能性が多いにあるため、これまた注意が必要です。
 
   毒の無いフグの存在は知っていましたが、最近無毒の養殖フグの群れに毒を持つ天然フグを放すと、無毒のフグも毒化することがあるという話を聞きました。テレビ番組で放送されたようですが、これは意外です。どうも養殖フグが天然フグに襲いかかり、その後毒化するということのようです。何だか人間によって本来の能力を奪われたフグにも野生の本能が残っていて、それを取り戻すかのような行動に見えて人間の愚かしさと自然の逞しさを感じます。
 
 
 人間でも、辛辣な言葉を放つ人のことを毒を吐くなどと言いますが、その毒は自分にも返ってくることが往々にしてあります。そして毒のある人は周囲を毒化するどころか無毒な人から疎ましがられ孤独になっていくので、毒化は社会関係を重視する人間にとっては有効な戦略とは言えないでしょう。
 
 
 
 言いたいことも言えないこんな世の中で毒を吐けるだけマシかもしれませんが。