半可通素人の漂流

哲学から魚のお話まで。半可通素人が書き散らかすネットの海を漂流するブログ。

街場の就職活動論 ‐ 武器が無いなら作ればいい

 以前7回にわたって投稿した記事を1つにまとめました。11,000文字以上とやけに長いのですが、ある程度まとまった考えが書けたかなと思います。周囲に就活を控えている学生がいる方など参考にしていただけると幸いです。

◆概要

  • 「本当に自分に合った仕事」などそうそうないと知ること
  • 「自己分析」なんて大したことではない
  • 「なぜ?」をとことん繰り返すのがポイント
  • ありふれた経験も「自分ならではの話」にできる
  • 嘘はバレる
  • 「新卒一括採用」という制度の功罪
  • 様々な企業の話を聞けるのは今しかない
  • まずは職に就くこと。話はそれから
  • 就職活動は手段であって目的ではない
  • できることを広げていき、やりたいことに手を出していく
  • 働くとは傍(はた)を楽(らく)にすること

 (計11,749文字)

 

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 年が明けて、また就職活動が話題になる時期がやってきました。と言っても今年からは経団連の「採用選考に関する指針」とやらで企業の広報活動開始が3/1以降、選考活動開始が8/1以降とスケジュールが大幅に後ろ倒しになっています(従来は広報が12/1以降、選考が4/1以降開始)。にも関わらず、内定は10/1以降と従来と変わらず、就職活動は短期戦を余儀無くされます。

 経団連すなわち大企業の都合で学生が振り回されるのはなんとも不健全なものですが、従来の就職活動が学業に支障をきたすといった指摘もあったため、議論が分かれるところです。

 

 以前、以下の過去記事で恋愛における振る舞い方を書きました。就職活動は恋愛に例えられることもあり、似ている要素があるので今回は就職活動について私の経験から思うところを書き連ねてみることにします。 

 

 ◆「本当に自分にあった仕事」などそうそうないと知ること

 就職=職に就くことであり、巷では「自分のやりたいことを仕事にしよう」、「自分に合った仕事を見つけよう」などとよく謳われています。

 しかし将来を見据えて目的意識的に生きてきた、あるいは親が教育熱心だった一部の人を除き、高校までは受験突破のためのテクニックを叩き込まれ、大学でいざ自由が与えられて時間と余暇を謳歌してきた大半の学生にとって、急に「やりたいこと」、「自分に合った仕事」と言われてもピンときません(一般化のために高卒で就職する人、自営業を継ぐ人などは例外とします)。

 あげくそのイメージに染められて自分にはやりたいことがないと落ち込んだり、もっと自分に合った仕事があるはずと行く先に迷う可哀想な子羊たちが量産されます。

 そうした子羊たちは、職に就いてもこれは自分に合っていないと早々に結論付けて辞めてしまったり、羊飼いたちにいいようにこき使われて搾取されるだけの結果に陥ります。これでは自ら不幸を選択しているだけというものです。

(このような構造を見ると、就職以前に教育制度そのものを根本から見直す必要があることは明らかです。しかしここでは直近の就職活動について書くため、教育の問題は横に置いて話を進めます。)

 

 就職活動に臨むにあたって、まずは、この「自分に合った仕事を見つけないといけない」という幻想を捨てましょう。もちろん自分に合った仕事というのはどこかにあります。それに就ければ万々歳、しめたものです。しかし、どんな仕事にも嫌な部分、面倒くさいこと、辛いことなど山のようにあります。お金を稼ぐというのは何かと大変なことです。

 しかもそれまで仕事に就いたことのない学生が職を探す訳ですから、その内容について多くを知らないのが現実です。そう考えると、自分に合った仕事に就ければ幸運、多少不本意でも初めはまあそんなものだと思った方が精神的にも楽というものです。

 

◆「自己分析」なんて大したことではない

 就職活動というと必ず出てくるのが、自己分析という言葉です。就職活動を開始して間もない頃に、自分の趣味嗜好や過去の経験を振り返って書き出したりしてみましょうというアレです。こう言われても、「これって何のためにやるの?」となる人もいるのではないでしょうか。ここでいきなりつまずいてしまうと、後の活動に影響を及ぼすことになるのでこの疑問は大きなハテナとなるのですが、明確にこう、と答えている本などに出会ったことがありません。これは隠れた問題ではないでしょうか?

 

 しかし実は簡単なことで、自己分析なんて大袈裟な言葉にするから、分析した結果何か確かな答えでも導き出さなきゃと思ってしまい、要領を得ないのです。

 簡単に言うと、自己分析とは「自分の話に根拠と納得感を持たせるための理由探し」に過ぎません。分析することが目的ではなく、就職活動をする上での武器探しの手段の一つです。では具体的にどのようにやるのか?ここで出てくるのが自分の趣味嗜好や経験の振り返りです。

 

 例えば、「私は魚が好きです」と初対面の人に言った時に、「何で?」とか「どこが?」となるでしょう。そしてそうした疑問に対して、「食べると美味しいから」とか「泳いでいる姿が楽しいから」などと理由を答えることになります。この理由の部分がその人の嗜好や経験によって異なってくるため、理由がすっぽり抜けたままただ「魚が好きです」と言われても、聞いた人は「?」が頭から消えず、納得してもらえません。

 

 同じことが就職活動の多くの場面でも起こります。「あなたが仕事で実現したいことは何ですか?」とか「なぜ当社を志望したのですか?」などはどこの企業に行っても聞かれることです。

 この質問に対して、「私は〜という理由があって技術者として製品開発に携わりたい」、「私は〜と考え御社を志望しました」などと答えられない人はまず選考を通ることは難しいです。

 これら就職活動において自分が話すことについて、その根拠と納得感を持たせるために自身の嗜好や経験の棚卸しを行い、肉付けをしていく作業が自己分析です。

 

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photo by deanmeyersnet

 

◆「なぜ?」をとことん繰り返すのがポイント

 「 自分の話に根拠と納得感を持たせるための理由探し」が自己分析と書きましたが、言葉を並べただけで肝心の中身が無いことには、虚しく響くだけです。しかも相手は採用のプロなので、空疎な言葉はすぐに見抜かれます。

 

 では、自己分析に中身を肉付けしていくには具体的にどのようにすればいいのでしょうか?

 一つの方法として、「なぜ?」をとことん繰り返すことがポイントになります。頭に浮かんだことについて、ひたすら「なぜ?」と問いを繰り返していくことで内容を深めていく作業です。

 

例えば、

・私は魚が好き

 ↓なぜ好き?

・食べると美味しいし、泳いでいる姿が楽しいから

 ↓なぜそう思うようになった?

・釣りが好きで魚そのものに興味を持ったから

 ↓なぜ興味を持った?

・釣りをすると必然的に魚の餌や習性について考えるようになり、種類ごとに違う生態をしているのが面白かったから

 ↓そもそもなぜ釣りを始めた?

・小学生の時、転校した先で友達を作ろうと思った時に周りがやっていたから

 ↓…以下、これ以上細かくしようがないと思うまで繰り返す

 

 こうして、「小学生の時、転校した先で友達を作ろうと思った時に周りが釣りをやっていたから親しくなろうと思い釣りを始めた。そうして釣りをするうちに必然的に魚の餌や習性について考えるようになり、種類ごとに違う生態をしているのが面白かった。そこから魚そのものに興味を持つようになり、魚が好きになった。」というストーリーができあがります(実際には更に深掘りをしてより枝葉を広げます)。

 

 これが、例えば水産関係の食品会社などを志望した時に「なぜ魚が好きか」という話の根拠になります。また他にも、応用すれば「興味を持ったことはとことん突き詰めて掘り下げていく性格です」というアピールをする時の根拠になるエピソードにできたりもします。

 

 「なぜ?」の問いを立て、考察を深めていくのに少しコツが必要かと思いますが、数を重ねて慣れれば大丈夫です。これを自分の趣味嗜好、長所短所、学生時代の経験談、志望動機、自己アピールなど様々な場面で展開する話の準備として早い時期に行っておきます。またこの問いに終わりはないので、就職活動中にマンネリを感じたり、行き詰った時には折に触れて問い直すことも必要になってきます。

 

 私もまあそうでしたが、レポートなどもしょっちゅうコピペで済ませてきた大学生に、いきなり自分のことについて考えろと言っても初めは要領を得ないかもしれません。しかし、就職活動ではいきなり初対面の人に対して自身のことを話し、納得してもらう必要があります。そこではサルでもわかるように」語らないといけません

 更に大学を出て社会人になると、仕事の関係で初対面の人に対して話をする場面が確実に増えます。よっていい訓練の機会だと思って、とことん考え自分の話を他人に分かってもらうための材料作りをしましょう。

 

 これが就職活動を進めていくうえでの武器になっていきます。

 

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photo by Dano 2: Electric Boogaloo

 

◆ありふれた経験も「自分ならではの話」にできる

 就職活動では、とかく「何か他人にはない特別なことでアピールしないと! 」という心理が働きます。しかし実際には、そんな優れて特別なことなど大抵の場合持ち合わせていません。自分には何もないと今更になって自覚しても、材料が見つからない以上は前に進みません。

 ここで前項で述べた、自己分析の話題が活きてきます。

 例に挙げた、ごくありふれた「魚が好き」という話も、自身の経験やその時思ったことを足していくことで「自分ならではの話」にすることができます。それだけ?と思われるかもしれませんが、それだけで良いのです。なぜならその場その時の経験や思考は、その人のオリジナルだからです。

 

 この記事の副題に「武器が無いなら作ればいい」とつけましたが、こうした「自分の話したいこと+その根拠としての経験や思考」が、就職活動という冒険を攻略していく上での武器となるのです。そしてこれはいつでも作ることが出来るので、「就職活動で経験したこと」すらも経験した次の瞬間から自分の武器として使える材料に化けます。

 一見すると小さなことですが、そういう話こそが地に足の着いた印象を与えることにもなり、説得力を増すスパイスとなります。

 

 

 

 ここまでの話を一旦まとめると、「自己分析=武器を作る作業」ということです。冒険の初めの武器が心もとないのは初期設定なので仕方がありません。しかし自身の経験を掘り起こして経験値を稼ぎ、武器をレベルアップさせていくことができます。むしろ私のような凡人はそうでもしないと闘えません。

 しかしこの武器は確実に威力を発揮します。私はこれまで述べたように魚が好きで、大学は水産系の学部に進み、修士の学位まで取得しました。ですが現在は、自動車の部品関連企業で設計開発として職を得ています。世間一般からすると全く繋がりのない経歴で、相当の変わり者のように思えますが、専門に勉強してきた工学部卒がほとんどの人達と同じ舞台に上がれたという実績が、この武器の強さを物語ります。

 学業と繋がりのない企業に就職できたのも、この自己分析によってしっかりと武器を作り、自分の考えを相手に伝えることができたからこそでしょう。

 

◆嘘はバレる

 ただしここで、気を付けなければならないことが一つあります。

 それは、「嘘をついてはいけない」ということです。

 これまで述べてきた自己分析の方法を用いると、他人の経験談やネット等の情報、あるいは想像によって架空の話を作ることができます。いかにも聞こえの良い、注目されるような内容を盛ってしまいがちです。しかし、そのようにして作り上げた虚構は採用する側にはいとも簡単に見破られてしまいます。

 

 私が就職活動をした際に経験したことですが、とある企業の最終面接でのことです。その面接は役員級の方々7〜8人に対して私1人の形式で、代わる代わる質問をされそれに答えていました。

 今思えば大変失礼な話ですが、その企業はいわば記念受験のようなつもりで受けており、選考を通過しても辞退しようと考えていました。そんな姿勢(もちろん口に出したり態度に出ないよう注意をしていました)で臨んでいたところにある面接官の方が一言。

 

 「ところで君は何だかどうしてもうちに来たい、って感じじゃないねえ。」

 

 急に核心を突かれて、非常にドキリとしました。「正直に申し上げますと、内定をいただいてから考えようと思っています。」と答えるのが精一杯でしたが、内心はドキドキの冷や汗タラタラです。この経験は忘れられないものとなりました。

(その後、ありがたいことにこの企業からは内定をいただきました。ますます恐縮です。)

 

 初対面の極めて短い時間で、あっさりと内心を見破られてしまったのです。採用で出会う方々は人を見るプロだと強く実感しました。

 

 このことから分かる通り、嘘はすぐにバレます。偽りの武器では闘いになりません。これも肝に銘じておくべきことです。

 

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photo by niznoz

 

◆「新卒一括採用」という制度の功罪

 話は変わり、日本での就職活動においては、「新卒一括採用」というのがほぼ事実上の標準になっています。この制度について、ほとんど疑問を抱くことなく組み込まれていく人が大多数です。私もそうでした。

 しかし一歩日本の外に出てみると、事情は異なります。海外においては、そもそも新卒という枠が無い国が一般的です。また学生が同じ時期に就職活動を行い、4月に一斉に入社するのは珍しく、例えばアメリカでは通年で採用を行っています。

 

  •  EU諸国全体の傾向ですが、彼らの就職活動は大学での専攻を生かせる“職種”を選ぶというもの。入社後も同じ職種で勤務し続けるのが向こうの文化で、転職しても前職と同じ職種に就くのが基本です。また、そもそもヨーロッパには新卒一括採用の概念がないので、就職浪人もありません。 
  • フィンランドでは何歳までに学校を卒業して、就職して、というような年齢制限のあるレールはありません。大学に入るのも卒業するのも自分がしたいときにすればいいという考えです。
    ですから、大学で留年すると就職に不利になるみたいなのは一切ありません。 
  • 海外だと新卒であってもスキルを必要とする国が多いです。そのために学生は自分のスキルを磨いていくということを在学中から意識しています。 
  • アメリカの大学は入るのは易く出るのは難いので有名です。大学生の勉強量はすごく多く、とても日本の典型的な就活生ほど時間をとることはできません。これを理由に、大学一番最後の学期か卒業後に自分のタイミングで学生が職を探し始めるということが普通です。アメリカでは基本的に就活シーズンというのはなく、年中通して会社の職には応募できます。 
  • アメリカの学生は勉学だけではなく、高校・大学在学中から夏休みなどを使って積極的に企業で実施される長期のインターンシップに参加します。
    これは、アカデミックな側面から勉強に励むだけではなく、学んだことを生かして実践的な経験を積むことで、卒業後すぐに即戦力として働けるように準備をするためです。

 

【海外に比べて日本は異例!?】世界各国の就活事情を調査してみた! | CareerPark![キャリアパーク]|みんなのノウハウが集まる場 より引用 

 

 基本的には即戦力であることを重視し、インターンシップなどの経験や個人のスキルに重きが置かれているようです。

 

 これらと比較すると、日本の就職に対する考え方は新卒に即戦力を必要としない代わりに異常とも言える程選択肢が少なく、同調圧力が高い日本社会の縮図がまさに現れていると見ることができます。

 就職活動で自殺者が出るのも日本くらいと言いますが、このような様相を取り上げたアニメーション動画がネットで話題になったこともありました。

 


アニメーション「就活狂想曲」 - YouTube

 

 これを見て抱く感想は人それぞれだと思います。皆が同じことを求められる異常さを不健全だと異議を唱える。学生時代にろくに勉強もしてこないで、就職活動になって慌てて周りに合わせても結局は望んだ結果は得られないというメッセージと受け取る。などなど。

 

 「多様性が認められない社会である」という日本の現状について、確かに考えることは多いです。

 

 その一方でメリットもあります。先程日本では即戦力を必要としないと書きました。大学を卒業したばかりの社会経験がほぼゼロの人間を採用し、社会人としての作法など基礎的な部分からの教育に多大なコストを割いてくれるのは日本の企業くらいでしょう。

 そういった意味では単位取得や卒業要件が厳しくなく、いわばぬるま湯の中にどっぷり浸かっている日本の大学生にとっては、新卒未経験で採用してくれる企業が無いと就職先が見つからないという事態に陥ります。

 いわば「おんぶにだっこ」の状態であり、これまではそれで社会が回っていました。しかし、これから先も同じであるとはあまり思えません。

 

 卵が先か鶏が先かの話になりますが、「ゆるい大学生」と「ゼロから育ててくれる企業」という構造が是正されない限り、日本がこうしたガラパゴス状態から向けだすことは難しいでしょう。そんなこと言っているけどお前もその構造の恩恵を受けてきただろう!という突っ込みについては、甘んじて受けます。

 

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photo by Barack Obama

 

◆様々な企業の話を聞けるのは今しかない

 悲喜こもごも、功罪いろいろある就職活動ですが、ここで一つ見落とせない点があります。 

 就職フェアや合同企業説明会、単独の会社説明会など、就職活動においては多種多様、様々な企業の業務内容や求める人材の説明を聞くことになります。合同企業説明会でなるべく多くの情報を得ようとしたり、一日にいくつもの企業を回ったりすると、もはやうんざりしてきてしまいますが、そんな時に思い出して欲しいのが「様々な企業の話を聞きに行って、歓迎されるのは今しかない」ということです。

 就職活動期には、多くの企業が優秀な人材を獲得しようと積極的に自社をアピールします。そしてこちらが投げかける質問には、よほど常識外のことでない限りは快く答えてくれます。いわば広く門戸を開いて歓迎し、情報を提供してくれるのです。

 

 社会に出ると、一般的にはこのような機会はほとんどありません。当たり前ですが企業に話をしに行く際、まず「お前は誰だ、目的は何だ」となります。そして仕事ですから、情報を提供してもらったらこちらもその分の対価をお返ししないといけません。聞けば何でも答えてもらえる、というこちらが優位な状況は就職活動限定の特典と言えます。

 社会人でも転職活動をすれば様々な企業の情報に触れられますが、スキルと経験を求められるので、新卒採用時のように誰でも歓迎という訳にはいきません。

 

 従って、これは一生に一度の貴重なチャンスなのです。私も今思えばもっといろいろな企業の話を聞きに行けば良かったと反省しています。自分に興味が無くても、世の中には沢山の仕事があり、様々な企業が事業を展開しています。はなから知らない世界に飛び込む訳ですから、何事に対してもそうですが、視野は広く心も広くないと勿体無いことこの上ないです。

 

 下世話な例えをすると、お見合いパーティーで自分の質問に相手がいろいろ答えてくれる状況なら、自分の好みや気になる人には当然声を掛けるでしょう。でもその他にも話してみると意外と気が合ったりピンとくる人がいるかもしれないので、こんな機会など滅多にないからとにかく手当たり次第声を掛けて可能性を広げておけよという話です。

 

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photo by Sebastiaan ter Burg

 

 

◆まずは職に就くこと。話はそれから

 さて日本は豊かな国である、とよく言われます。明日の衣食住に困るということはひとまず無く、治安も良いです。そして物と情報が溢れています。一昔前には多く見られた、生活のためにやむなく働かざるをえず、職業など選べないという状況も相対的に減っています。つまり、食うためにではなく自己実現のための職業選択ができ、かつその選択肢も非常に幅広く用意されています。そしてとりあえず働かなくても、親のスネをかじれば生きていくことはできます。

 こうした状態に慣れてしまった日本人は、選択の自由を得た代わりにその選択に伴う責任を軽んじるようになりましたニートフリーターの増加、入社3年後までに辞めていく新入社員…。

 それらの是非についてここでは触れませんが、自由に選べるということはそのための前提がある、ということを私達は忘れがちです。

 

 就職活動においても多岐にわたる選択肢があるため、多くの人は迷います。もっと自分にあった仕事があるんじゃないか、もっと待遇の良い企業がいい、などなど…。迷うこと自体は良いことですが、一時の気の迷いに流されて刹那的な決断をしてしまうのは得策ではありません。貪欲さが就職活動には必要ですが、同時に謙虚さも持ち合わせておかないといけません。

 職業を選べる自由に感謝し、たとえ多少の不満があったとしてもまずは職に就くことを優先する、ということを頭の片隅に置いてください。

 

 更にこのご時世、正社員の地位はもはや特権階級へとなりつつあります(嫌なご時世ですが)。その正社員への門戸が開かれ、前項で触れたように一生に一度しかないこの機会に、その権利を行使しない手はありません。選り好みも大いに結構ですが、名を捨てて実を取る戦略を残しておきたいものです。

 なおかつ、現在の日本社会では一度正社員という枠組みから外れると、そこから再び正社員の地位を手に入れるのは途端に難易度が上がる、という問題があります。どこかの誰かが再チャレンジできる社会を実現する、とか言っていますが、いわゆるセーフティーネットなど未だ影すら見えていないのが現実です。こういうことを知っておかないと、格差構造に絡め取られて笑うに笑えない事態になります。

 ※正社員が今後も優位性を持つか、という議論は別にされなければいけませんが、ここではとりあえず置いておきます。ちなみに僕たちは就職しなくてもいいのかもしれないと言っている人も世の中にはいます。

 

 そもそも、仕事が自分に合っているかなんて働いてみないと分からないことも沢山あるし、まずは正社員に潜り込んでから転職という形で希望を実現する、という選択もあります。

 「人間は目の前の問題は虫眼鏡を通して見える」という喩えがあります。就職活動中は焦りもあり周りとの比較もありますが、一歩引いた視点で眺めてみると冷静になれますね。そしてその方が気持ちも楽になります。

 また、就職は「運と縁と勘」という言葉もあります。ここまでくると何やら神頼みのような雰囲気が漂いますが、思わぬところから就職が決まる、というような話もよく転がっています。

 

 ともあれ就職活動をするのであれば、とりあえず何かの職に就くということを一つの目安にしてみてはどうでしょうか?人生は長いです。職を得てからその先を考えるのも遅くはありません。

 

 一方で、この項の最後に強調しておきたいことがあります。私は高い志を掲げ、その実現に向けて渾身の努力をすることが人生において必要だと考えます。就職活動においても、大きな挑戦の機会と捉え、より高い位置に目標を据えて実現に向けて奮闘するべきです。そうすることで自分の成長につながります。よってこの項の趣旨はいささか消極的な選択肢を提示しているため、私の信条には必ずしも沿ったものではないです。ですが身の丈に合った考え、更には失敗した時のことも考えておかないと、後から慌てたり後悔してもどうしようもありません。そうした文脈で読んでいただけると幸いです。

 

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photo by Stéfan

 

◆就職活動は手段であって目的ではない

 ここまで、就職活動に臨む際の姿勢や方法論について長々と述べてきました。これらを参考にしていただけると嬉しい限りですが、大前提として踏まえておくべき点について、ここで敢えて書いておきます。

 それは、「就職活動は、あくまで長い人生においてその後の大きな割合を占める職に就くための手段であって、活動そのものが目的ではない」ということです。

 言われてみれば至極当たり前のことですが、人は往々にして目の前のことに集中すると大きな視点から目が逸れてしまうので、しつこい位に自分に言い聞かせるべきことです。かく言う私も、内々定が決まるまでは他のことをなるべく遮断して一目散に駆け回っていました。

 

 前の項でも触れましたが、長い人生です。就職活動はこれから長いこと時間と労力を割くことになる職を決めるための通過点に過ぎません。過ぎたるは及ばざるが如し、過度に恐れて不安になったり焦ったりしても良いことはありません。

 しかし一方で、学生時代よりよほど長い期間を働くことになるのですから、真剣に自分の人生について考え、やりがいや誇りを持てる職選びに全力を投入すべき時期でもあります。

 後悔のない就職活動を目指してください。

 

 なお、「手段が目的化していないかどうか」はこれに限らず、常に意識しておきたい鍵となる言葉です。

 

◆できることを広げていき、やりたいことに手を出していく

 めでたく職に就いた後の話も、少ししておきます。

 何はともあれ無事に職にありつき、さあ仕事だとなりますが、当然ながら初めからやりたいことをはいどうぞ、とさせてもらえる訳ではありません。

 私が就職活動をしていた時、とある企業の説明会で社員の方が「最初の仕事はクジ引きだ。だからどんな仕事でもまず引き受けることが大事。」と仰っていました。これを聞いて私は、ああ真理だなと思ったものです。

 

 新人の頃は実力も経験も無く、何より何をどれ程任せたらいいかが周りに見えていません。そんな状態で「これがやりたい」と声を上げても、いまいち信用できないし説得力も伴いません。

 社会に出るとこの「信用」というものが大きな影響力を発揮することになります。「この人になら任せられる」、「こいつならやってくれるだろう」という無言のメッセージを受け取れることがその人の武器になります。

 そのために、丸腰の新人はクジ引きで自分に降りてきた仕事に全力で取り組み、「これならできる」ということを増やしていく必要があります。できることが増えてくると「こいつはこれができる」と周りに認められ、それが積み重なって信用という武器が作られてくるのです。そうなって初めて、「これがやりたい」ということに対して「じゃあやってみるか」という段階に辿り着けます。

 

 この「できることを広げていく」という過程は、勉強や部活など既にこれまでの人生において他のことで経験済みであり、就職活動中にも経験することになります。それを仕事にも応用すればいいだけなので、恐るるに足らず。目標を持ち、地道に進んでいけば新たな道が見えてきます。

 

 人間未経験のことは恐いものですが、経験が無いことは既に経験済みのことから予測するか、他人の経験から指針を得るしかほとんど術はありません。しかしそれもあてになる訳ではなく、逆に経験などはその時の状況で起こった特異な出来事に過ぎず、あてにならないという見方も成り立ちます。結局は藪の中を自ら進んで行くことでしか、成功の果実は得られないのです。

 

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◆働くとは傍(はた)を楽(らく)にすること

 ここまで、就職活動についての私の考えを書いてきました。人生のその後を左右する大事な局面ではありますが、気負わず臨機応変に、ですが貪欲に同時に謙虚に取り組むことが大事です。

 

 つまるところ、就職活動とは「働くことに対する覚悟」を自分の中に作っていくことかもしれません。

 働く、ということは生きていくために当然必要な行為で、そこには何処か義務感がついて回るような印象があります。しかし、「はたらく→傍(はた)を楽(らく)にする」と考えると、自分が働くことで他人を助け、他人が働くことで自分が助かるという、社会として当たり前の有り様がそこに込められていることに気が付きます。

 

 傍を楽にする入り口となる就職活動に幸あれ、ということで。

 

 まあ率直に言うと、働くって理不尽な上司に無茶振りするお客さん、面倒な事務仕事に半端ではないプレッシャーにさらされたりとそれはもう魑魅魍魎の世界だけどね!

 

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

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photo by Ү

 

 …いや、良いことも沢山あります。

 

 読んでくださった方、是非とも感想をお寄せいただけると嬉しいです。 

 

 


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