半可通素人の漂流

哲学から魚のお話まで。半可通素人が書き散らかすネットの海を漂流するブログ。

パプリカ - 夢にまつわる不思議譚とジャパニメーション

   ずいぶん前に観た映画ですが感想を書きます。
 

 

パプリカ [Blu-ray]

パプリカ [Blu-ray]

 

 

 

   監督はその才能を評価されながらも若くして亡くなった今敏氏。
あらすじは以下のようなものです。
 
パプリカ/千葉敦子は、時田浩作の発明した夢を共有する装置DCミニを使用するサイコセラピスト。ある日、そのDCミニが研究所から盗まれてしまい、それを悪用して他人の夢に強制介入し、悪夢を見せ精神を崩壊させる事件が発生するようになる。敦子達は犯人の正体・目的、そして終わり無き悪夢から抜け出す方法を探る。
 

   作中では夢と現実の間を何度も行き来し、観ている側の感覚も段々どちらか分からなくなっていきます。夢という、私達が普段見ていながらも実はよく分かっていない不思議な世界を題材に、主人公のパプリカと千葉敦子が駆けるさまは観ている者を惹きつけます。

   他人の夢に潜る、という世界観は攻殻機動隊の電脳ハックに似ているようでもあります。
 
   そして音楽はテクノ/エレクトロ方面では知らない人はいないというくらい有名な平沢進氏です。個人的にはジブリで言うところの久石譲氏並み。
 
   ※以下、ネタバレあり
 
   音楽もさることながら、アニメならではのキャラクターの躍動感、映像の作り込みと美しさが素晴らしく、また見返したいと思わせる作品です。夢の世界での家電や人形達の行列は百鬼夜行を思わせ、まさに日本的感覚を映像化したジャパニメーションの醍醐味を味わえます。
 
   後半の展開が速いため、一生懸命観ていないと置いていかれてしまいますが、夢を乗っ取られた登場人物の喋る意味不明の言葉にも注目してみるとまた違った楽しみ方ができると思います。
   例えば、以下の所長のセリフ。
 
「絢爛たる紙吹雪は鳥居をくぐり、周波数を同じくするポストと冷蔵庫は先鋒をつかさどれ!
賞味期限を気にする無頼の輩は、花電車の進む道にさながらシミとなってはばかることはない!
 
思い知るがいい!三角定規たちの肝臓を!
 
さあ!この祭典こそ内なる小学3年生が決めた遙かなる望遠カメラ!
 
進め!集まれ!
 
私こそがッお代官様!!!!
 
すぐだ!すぐにもだ!!
私を迎え入れるのだあああああああああ」
 
   いかがでしょうか。完全にイカレています。圧倒的な語彙。このように意味があるようで全くない言葉を紡ぐセンスに脱帽です。こうしたセリフに気を取られてしまうと話の展開が分からなくなるので、イカレたセリフに注目するのは2回目以降をお勧めします。
 
   話のクライマックスで理事長に飲み込まれた敦子が再び赤ん坊となって現れ、悪夢を吸い込んで大人に成長していく描写がありますが、これは夢を夢として飲み込み、現実と折り合いをつけていくという人の成長を象徴しているように私には見えました。ここに至るまでにやけに裸が出てくるので多少目のやり場に困るのですが(笑)
 
   惜しむらくは話の筋が安易に感じられたことです。同僚が理事長の手先だったのはまだしも定番として、話の終わりには時田と敦子が結婚してハッピーエンドって何だかなあ。そこに至るまでの伏線が描かれていないだけに唐突な印象を受けます。ですが映画という限られた時間の中ではそれも致し方ないのかもしれませんが。
 
   ともあれ一見の価値ありの映画です。これだけの作品を作るのに一体どれだけの人数、労力がかかっているのかを想像するとアニメ、マンガ業界の待遇の低さは一考されてしかるべきだと思います。クールジャパンがーとか言っているオジサン達には、利権や天下り先の確保に汲々としていないでこうした日本の文化を支えている人々とその環境を守り育てていくことを少しでも考えて欲しいものです。