半可通素人の漂流

哲学から魚のお話まで。半可通素人が書き散らかすネットの海を漂流するブログ。

「37.5℃の涙」のモデルになったソーシャルビジネスの話を聞いてきた

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photo by Intersection Consulting


 

◆ソーシャルビジネスという事業

   社会的課題をビジネスの手法で解決するーー「社会的企業」、「ソーシャルビジネス」あるいは「ソーシャルイノベーション」という企業体が近年注目されています。バングラデシュにあるグラミン銀行ムハマド・ユヌス総裁と共に2006年にノーベル平和賞を受賞し、一気に認知度と世間の注目度が上がったことはご存知の方も多いと思います。
 

   社会問題に対しては公的機関がその対処と解決にあたるというのが一般的な認識です。しかしそれには当然限界があり、民間でも社会問題に取り組む組織を設立する事例が増えています。NPOがその代表的な団体として挙げられますが、それらは公的な助成金補助金を原資に運営されているものがほとんどのため、社会保障費が削減されると途端に資金不足に陥るという側面があります。そこで社会問題の解決を中心業務に掲げ、ビジネスの手法で利益を上げながら持続可能な事業として回していくモデルが勃興し世界において様々な形で展開されています。

 
   こうした動きから日本においても社会的企業が増加してきており、私も少なからず関心を持っていました。そうしたこともあり、社会的企業の代表的な事例とこうした事業を創設した社会起業家の方の話を聞くフォーラムに先日参加してきたのでご紹介がてら覚え書きを記します。
 
   複数の登壇者の中で、今最も注目を集めていると思われたのが訪問型病児保育を提供する認定NPO法人フローレンスとその代表である駒崎弘樹氏のお話でした。
 

◆「37.5℃の涙」のモデル

   フローレンスの事業は現在TBS系の木曜ドラマ劇場で放送されている「37.5℃の涙」のモデルになっているもので、駒崎氏もこの原作マンガとドラマで注目度が上がったと語っていました。
   ドラマをチラ見程度に見ましたが、浅野温子さんが演じる母親のサイコパス加減と妙な存在感(演技力のなせる技)が気になってしょうがなくなってしまい、本筋はあまり頭に入りませんでした。
 
   仕事を持つ親がいる子供が病気にかかった際、普段子供を預かっている保育園では他の子供に病気をうつしてしまう可能性があるため子供を預かることができません。従って親は仕事を休まざるを得ず、更に子供の病気が長引いた場合は一定期間仕事ができない状態に陥り、子供と仕事の板挟みになってしまいます。こうした子供の保育を行うのが病児保育です。子供が病気の時くらい休むのが常識だろ、というのは正論ですが、1人親の家庭で経済的に困窮していたり職場の理解が得られなかったりなど様々な事情から病児保育に対する必要性が高いのが現実です。またエコノミックアニマルと揶揄される日本人の精神構造から、長期で休むことで職場に迷惑を掛けることに対して負い目を感じてしまうという傾向は避けられません。
 

◆フローレンスの事業

   フローレンスではこの病気にかかってしまった子供を保育する病児保育を施設を持たない「訪問型病児保育」として提供しています。都市部においては新規に施設を設けられる場所が限られ、開設の手間がかかることも障壁です。また施設型では病気を他の子供にうつしてしまう可能性を排除できません。そうした課題を解決するのが自宅に訪問して保育を行う訪問型という訳です。
 
   フローレンスのミッションは「親子の笑顔を阻む社会的課題を解決する」というものだということで、まさにこのミッションに合致した取り組みと言えます。駒崎氏がこの事業を始めたのは、お母様がベビーシッターをしており、母から子供の看病のために仕事を休み、その結果解雇される母親がいるという話を聞いて衝撃を受けたという体験が背景にあると話していました。
 
   他にも保育の世界には「定員20名未満の施設は保育所として認められない」という謎の規制があるそうです。この20名の根拠を厚生労働省に聞いてみたところ、「昔からそうだから」という全くもって理不尽なご回答。これを聞いた駒崎氏は早速動き、定員9名で空き物件などを活用した「おうち保育園」を開設しました。これが反響を呼んで多数の応募があり、おうち保育園の数も増えていき結果小規模認可保育所として認められたという経緯があります。
 
   また医療的ケアが必要な障がい児に関して、保育の受け入れ先がこれまでゼロだったという問題にも着手し、日本初の障がい児保育園も開設しています。
 

社会的企業の可能性

   このように、社会が抱える様々な問題に対してかつての公共機関による対処の枠組みを超え、民間の力で解決を目指す動きが活発化してきています。社会問題を解決するという事業は収益化が難しく、持続可能なモデルを展開していくのに課題も多いのが現実です。給与水準も現状では高いとは言えず、転職した場合収入は概ね下がると見込まれます。しかしお上に頼らず民間の知恵で問題に対処しようという動きは今後ますます増えていき、減ることはないでしょう。前回の記事(「みんなちがって、みんないい」じゃないと病んでるし楽しくないよね - 半可通素人)で社会の多様性が重要だと書きましたが、社会的企業はまさに社会の多様性を支えるのに少なからぬ貢献が期待できます。
 
   これらの動きは行き過ぎた資本主義社会が生んだ歪みに対する揺り戻し、カウンターアクションという側面も含んでいると見ることができます。かつての高度経済成長時代で私達は物質的に豊かな社会を享受してきました。しかし過去の成功モデルはとっくに崩壊し、人口が減少していく中で皆がさらなる成長を見込むことが難しいのは誰もが肌身で感じることです。ではそのような社会で「働くことの喜び」を見出せるでしょうか?過去の成功体験、働いて経済的物質的に豊かになるにという幻想に縛られていては難しいでしょう。
 
   発展著しいアジア、アフリカなどの海外新興国に活路を拓くのも1つの可能性です。一方国内においては「社会問題をビジネスの手法で解決する」という社会的企業が1つの選択肢として浮かんできます。給与を含めた待遇面、現場での問題解決の困難さなど現実は確かに厳しいものがありますが、社会において役割を果たすという実感、そこから生まれるやりがいは大きなものがあります。モノとカネを追い求め、何かを忘れてきてしまった私達。ですが失ったものを取り戻し、働きがいのある仕事に就くという新たな地平が実はすぐそこに広がってきているのです。

 
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