半可通素人の漂流

哲学から魚のお話まで。半可通素人が書き散らかすネットの海を漂流するブログ。

オバケの英語は「ゴマ」と「ちくわ」、「プチトマト」、「インゲン豆」で理解せよ

   「中高大学と10年間英語を習っても話すことができない」…
 
   これは日本の英語教育の明らかな欠陥ですが、英会話と同様に発音も全然できるようになりません。これは英語教育が受験対策に特化していることによる病理ですが、発音に関しては言語の成り立ちが日本語と英語では大きく異なるということにも起因しています。発音が理解できなければネイティブの会話が聞き取れず、自分で話すにも相手に通じるかいまいち自信が持てません。かといって「それっぽく」発音してみると何だか気取っているような印象を受ける始末。
 
   どうにも手を焼く発音ですが、母国語でない以上訓練をしないと能力は向上しません。ということで本を買ってみました。
 

 

新装版 オバケの英語 【CD付き】

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   Amazonで発音関係の書籍を検索してレビューを見る限り、この分野では割と有名な本のようです。タイトルからして親しみやすい感じですが、内容もニューヨークに来たものの英語ができずにくすぶっている青年の前に日本語堪能なネイティブのオバケ(幽霊)が現れ、無料の英語教室を開いてくれるという小説仕立てでネイティブの発音の仕方を分かりやすく解説してくれます。

 
   この本でオバケが教えてくれる発音の仕方がユニークです。一例を引用します。
 
“「さあ、ハナタロウ君(ブログ筆者注:主人公の青年の作中での呼び名)、ちくわをくわえてみなさい」「ちくわの穴をつぶすイメージで唇をつぼめ、その反動で開く。この比較的長い時間にわたってウーと発音するのがw。日本語のウに近く、喉の奥で一瞬発声するのが母音のu。そして、wに近い唇のイメージ、すなわち、ちくわの穴を半分だけつぶして、舌を後ろにそらせたまま声を出すのが、なんと、rの発音なのだよ」「まさにここがポイントなんだ。唇のイメージという点では、wとrは恋人どうしみたいなものなんだよ。lとは何の関係もないんだ」”
 
   多くの日本人の頭に?を浮かべさせるrとlの違いも、このように説明されると理解しやすいですね。本にはちくわをくわえたイメージの図も載っているので、文章だけでなく視覚的にも分かるようになっています。こんな調子でオバケは次々と食べ物を使って発音方法を教えてくれます。出てくるのはゴマ、ちくわ、プチトマト、インゲン豆、魚の小骨など…。イメージしやすく、明確な例えでこれならできそうという気にさせてくれます。
 
   そして発音のみならず、オバケは時に教訓めいたことを言って聞かせるのですが、これも首肯させられることが多いです。
 
“「だめだよ、ハナタロウ君。ワタシはオバケだからわかる。生きているっていうのは有限ということなんだよ。寿命が七十年だとすれば、人の一生なんてたったの二万五千日だ。ぼんやりしている暇もなければ、他人の悪口を言っている暇もない。一日一日を大切にしなければならない。つまり、勉強しろってことだよ。勉強だけが貧乏人にもチャンスを与えている。楽しく、明るくやるんだ!」”
“「好きなことが上達するのは、好きだから繰り返しが苦にならないってことだろう。嫌いなことは繰り返す気にもならない。だから上達しない。たったそれだけのことなんだよ。言葉そのものの好き嫌いよりも、その言葉を学ばなければいけなくなった理由が、自分にとって好ましいものなのかどうか。まさにそこが必然と呼べるかどうかの分岐点なんだ」”
 
   まさにごもっともです。発音の本に人の理を説かれる。これも本書の魅力の一つでしょう。
 
   発音に話を戻すと、この本で学べるのは個々の発音記号の発音方法、すなわち音素の発音の仕方といったものです。例えば「check it out」が「チェキラ」となるような(カタカナで英語を表すのは本書にもあるようにナンセンスですが)、特定の音が続いた時に読みが変化する法則(リエゾンと言います)など英語の音声変化については触れていません。しかし基礎のしっかりしていない家が安定しないように、言語の習得もしっかりとした基礎の上になされるべきでしょう。従って本書で基本を抑え、音声変化などの次の学習に進めば良いと思います。
 
   そして小説仕立てということでオバケが何故青年の前に現れたのか、彼の願いは何なのか…というところも描かれており、最後まで読み物としてもきちんと読ませてくれます。そうした点でも好感が持てる一冊です。