半可通素人の漂流

哲学から魚のお話まで。半可通素人が書き散らかすネットの海を漂流するブログ。

アンパンマン、この哲学的なアニメ(その1)

 
   アンパンマンと言えば日本では誰もが知っている人気アニメです。
 
   顔がアンパンでできた正義のヒーローが日々悪さをはたらくバイキンマンを懲らしめ、カバオくんをはじめとするみんなの平和を守る勧善懲悪ストーリー。顔が汚れたり濡れると力が出ない。バタ子さんの超絶コントロールによる顔の交換で復活というコンセプト。カバオくん達動物は人間の格好をして言葉を話し町で暮らしているのに、恐らく人間であろうジャムおじさんとバタ子さんは町から離れて暮らし、チーズは犬の格好のまま言葉を話せないという不思議。食パンマン、カレーパンマンメロンパンナに天丼マンといった多彩なキャラクターなど、その魅力は多岐にわたります。
 

   子供心にはバイキンマンに苦しめられながらも最後はアンパンマンが勝って終わる、清く正しく美しい愛すべきヒーローですが、実は大人にとっても滋味深い思想が背景に込められています。

 
   まずはアンパンマンのテーマ曲に歌われているこの一節。
 
   「何が君の幸せ?   何をして喜ぶ?   分からないまま終わる   そんなのは嫌だ!
 
   これは幸せとは何か?喜びとは何か?という極めて哲学的な問いそのものです。そして問いの答えが分からないということを到底認めない、真摯に哲学的な姿勢まで折り込まれています。単に子供向けアニメと侮れない、根源的な存在の探究をサラッと歌っているあたりにさりげない思想性の高さを感じ取ることができます。
 
   そしてネットによくまとめられているものがあるので紹介したいのですが、作者のやなせたかし氏がアンパンマンに込めた想いが胸を打ちます。
 
 
   過酷な戦争体験で味わった、飢えという苦しみ。正義は立場によって逆転し、正義のための戦いなど存在しない。そんな中で絶対的な正義とは「飢えている人に食べ物を差し出すこと」という答えに辿り着く。そうして生まれたのが「アンパンでできた顔をちぎって食べさせる」という“世界最弱”のヒーローです。またやなせたかし氏は作家としてなかなか芽が出ず、長い下積みを重ねて世に出ています。アンパンマンのアニメが放映されてヒットしたのは氏が70歳になろうとしている時でした。しかしそんな経験も決して無駄ではなかったと仰っています。そうした人生観も作品の背景にあることを知ると、伊達ではない深遠な哲学に裏打ちされたキャラクターであることが分かります。
 
   子供向けの親しみやすいアニメにこれだけの思想が込められているのです。私はアンパンマンをより好きになり、応援しようと思いました。知れば知る程大人もこの作品を通して考えることが多くあります。