全米150都市に翌日までに荷物を届けるには?に学ぶイノベーションの手法 − ソーシャルビジネス話の続き
前回の記事で書いた社会的企業に関するフォーラムの覚え書きを続けます。
◆イノベーション研究第一人者の話
歴史を振り返ると、冷戦に象徴されるような社会主義と資本主義のイデオロギー対立を人類は経験し、資本主義の勝利によって未来へのポジティブなイメージ、世の中は明るくなるという未来予想を多くの人が描きました。しかし現実はどうでしょうか。資本主義は世界に様々な影を落とし、例えばアフリカでは象牙の取引のために15分に1頭の割合で象が殺されています。しかも殺し方が生きたままチェンソーで頭の半分を切り落とすという残酷極まりない惨いものです。これは一見すると日本とは遠く離れた関係のない出来事のように思われますが、日本が戦後経済的に発展し、多くの家庭で象牙の印鑑が重宝されたことがアフリカでの象牙取引急増のトリガーになったのだそうです。
資本主義によって引き起こされた様々な社会的課題。この解決は一筋縄ではいきませんが、これを革新的なビジネス手法を用いて解決しようという動きがソーシャルイノベーションであり、その動きは途上国から巻き起こりました。代表的なのが前回記事でも触れたグラミン銀行です。注目すべきはソーシャルイノベーションは資本主義の発達した先進国ではなく、途上国から巻き起こったという点です。この分野においては途上国の手法を先進国が学ぶというリバースイノベーションなる事象が起こっているそうで、ここにはやはり行き過ぎた資本主義社会に対する反動という要素が影響しているのでしょう。
◆イノベーションとは何か、という事例
そして話はイノベーションとは何かという点に及び、「馬車を何台繋いでも機関車にはならない」というイノベーションの大家シュンペーターの言葉が引用されました。これには成る程と思わされますが、さらなる事例として、とあるアメリカの大学生フレデリック・スミスのレポートの紹介がされました。
彼は「全米の150都市の全てに翌日までに荷物を届けるには何台飛行機が必要か?」という問いを立てました。果たして何台でしょうか?少し考えてみてください。
答えは149台。メンフィスという都市をハブにして全米から集荷した飛行機が集まり、再び自転車のスポークのように散っていけば翌日までに配達可能になります。このアイデアはまさに画期的でしたが、隣町に届ける荷物もわざわざメンフィスまで運ぶとなるとコストが掛かりすぎるなどという理由から当時の教授からはC評価を受けたそうです。
◆誰もがイノベーター
この話は大変示唆に富んでおり、興味深く聞きました。こうした「誰もが見落としがちな、でも考えてみたら成る程その通りと思われること」を見つけ愚直に貫き通す姿勢がイノベーションの源泉の1つなのだと感じます。ソーシャルイノベーション、ソーシャルビジネスにもまさにそういった思考が求められ、社会を変えていく原動力となっていくのです。
日本においても日々ソーシャルビジネスの事例は蓄積され、土壌が広がっています。アイデア1つで社会を変えることが可能になる状況。私達は今大きな変革の中に立っていると言えます。
次回も続きます。